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助田茂蔵さんの謄写版絵
田中 栞/編集者


[4] 蔵書票を作っていただく
「たった一度の訪問だけでは……」というのは志村章子さんの言である。横浜に戻ると、それが実感された。助田さんの手紙はいつもサービス精神旺盛で、訪問の折り同伴した娘にと谷川俊太郎の詩に絵を添えて同封して下さったり、一枚の和紙葉書も小芳さんの句と茂蔵さんの絵が仲良く寄り添っているといった塩梅。巻紙を繙くにつれて姿を現す花の絵、絵とともに伸びやかに踊る流麗な筆文字。贈られる言葉もあたたかい。助田さんの場合、「また是非お越し下さい」というお誘いは単なる挨拶語ではない。手紙に触れるたびに、「そうだ、また行かなくては」という思いがつのる。
2回目の訪問は今年の6月。「印刷」が好きでたまらず、手動活版印刷機を手に入れて操っているという友人、佐藤有子さんを伴うことにした。
1年ぶりの助田さんは、杖を使いながらもしっかりとした足取りで、前にお会いした時よりお元気になった印象。今年、86歳である。再び作品を拝見する。前回の訪問では「登場」しなかった、助田篤郎さんの絵本『越前民話・じゅうろっぱ』『はだしとワークブーツ』などもある。ちょっとコミカルなタッチ、そして鮮やかな色彩。
今回見せていただいたものの中で特筆すべきなのは、作品の印刷過程がわかるように、1版だけ、2版まで、3版まで……とそれぞれの回数までごとの状態で重ね刷りを止めてあるもの。レブンウスユキソウ8版と、カタクリ17版。途中の1版の違いは、並べてみても私などにはほとんどわからない。さらに2版、3版、と加わるにつれて、カタクリの花の赤みと葉の緑が、次第に濃さを増していく。おそろしく手間がかかっていることがわかる。
年賀状などの小さな作品も丁寧である。毎年、花の絵と文章が葉書のスペースの中に美しく配置されていて楽しい。作品ファイルの中には、受注作品も多々ある。希望通りのものを印刷してもらうことも可能なのだ。私はかねてから思い描いていたことを篤郎さんに切り出した。「あの……、蔵書票を作っていただくことは可能でしょうか」

助田茂蔵・篤郎作「田中栞蔵書票」 平成13年

本と紅梅が配された絵をリクエストする。数日後、3点の下絵が届き、中から1つを選ぶ。開いた本に乗った長方形の紙片、ひもをつけて栞に見えるようにしていただく。そこに「紅梅堂蔵書」の文字。花の絵と文字は茂蔵さん、図案と刷りは篤郎さん。200枚の制作をお願いする。ほどなく、掌に乗るサイズの愛らしい作品が届いた。岩野平三郎さんの麻紙に謄写版7度刷り。雲英刷りの用紙の上に、上品で柔らかな色あいが踊る。なんと幻想的な世界であろう。色鉛筆の下絵では予想も出来なかった不思議な美しさに、思わず見とれてしまう。刷色はオフセット用の白インキを基調に、ホルベインの油絵の具を混ぜて作ったという。使用した絵の具の色はパーマネントホワイト、ストロングメジューム、アイボリーブラック、インディゴ、ローシェンナなど12色。油絵の具は色彩堅牢、色落ちしない強さがあるが、のびが悪く扱いにくいので、オフセット用インキを混ぜるのだという。几帳面な篤郎さんの手で、使用絵の具のリストが記されている。
印刷の過程がわかるように、刷りの回数ごとにとどめておいたものも同封されていた。お願いしようと思っていて言いそびれていたのだったが、私がこうしたものが好きだということをちゃんと察して入れておいてくださる、その心遣いが嬉しい。
最初の訪問の後で頂戴した『花爺句哉』に、私は記念すべき第1枚目の蔵書票を貼付した。蔵書票が相応しい居場所におさまったことで、本も蔵書票もいっそう愛おしいものに思えた。

*助田茂蔵さん連絡先  〒916-0047 鯖江市柳町2−4−4

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