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カウントダウンに入ったdrupa2004 ―― drupa2000の宿題 IGAS 2003が終わり、業界の目は来年のdrupa 2004へと向けられている。 ドルッパの主催団体メッセ・デュッセルドルフの発表によれば、すでにdrupa 2004の全小間が埋まったという。drupa 2004は、全17ホール、展示面積15万8000平方メートル、出展1800社の規模で、5月6日から19日の2週間、デュッセルドルフ国際展示場で開催される。 世界最大の印刷関連総合機材展であるドルッパは、たんなる新製品・新技術の発表の場であるだけでなく、印刷業界の世界的トレンドを作り出す場でもあり、古くはWYSIWYGなどの言葉がドルッパを機に広まり、前々回(95年)は「CTPドルッパ」、前回(2000年)は「デジタルドルッパ」と評されて、その後の業界動向を言い当てた。そのデジタルドルッパから3年半、はやくもカウントダウンに入った次回ドルッパを前に、この間の動きを振り返っておきたい。drupa 2000の描いた未来図は、何が当たり何が当たらなかったのか――。 加速した業界再編 前回ドルッパの来場者を最初に驚かせたのは、展示会とは本質的にかかわりのないハイデルベルグとクレオの提携解消のニュースだった。印刷と製版を代表するメーカーの提携解消はそれじたいビッグニュースであり、会場の話題を一瞬さらってしまうニュースバリューがあったが、これがその後の業界再編の先駆けとなる出来事とは、多くの関係者も予想しなかったのではないだろうか。 クレオはその後、各地の製版機メーカー・プリンターメーカーと提携を模索・推進し、サイテックスとの合併など、業界再編のひとつの焦点となった。 いっぽうのハイデルは、販売面を軸に提携の幅を広げ、最近もdrupa 2000で発表したデジタルプリンターDigimaster 9110の販売についてキヤノン販売と提携し、日本国内での販売を開始した。 吸収・合併などの対外的な動きは目立たないが、ハイデル自体の再編は急務である。今年3月の決算でハイデルは創業以来の大幅赤字を計上し、新年度も10%の売り上げ減少が予想されている。そのため、アメリカやドイツでの工場閉鎖に続いてその他地域での閉鎖も示唆されており、また昨年度行ったグループ全体での2000人規模の人員削減に加え、今年度も3000人規模の削減が予定されている。 日本国内でも再編の動きが続いた。社会的にも大きな話題となったコニカとミノルタの合併のほか、キヤノンによる住友金属システムソリューションの買収、富士ゼロックスによる富士通のシステム向けプリンター事業の買収、日立工機ほか日立グループのプリンター関連事業の統合、中国資本による秋山印刷機械の買収、富士写真フイルムによるプロセス資材の子会社化など、ほとんど日常的に再編の動きが続いている。業界団体でも、日本電子製版工業会の解散とメンバーのジャグラへの移行などがあった。drupa 2000で最初に飛び込んだニュースは、その後の業界の動きを示唆していたといえる。 伸び悩んだDI機 前回ドルッパの幕開けを彩った話題のひとつは、リョービによるDI機(ダイレクトイメージング機)の発表であった。 drupa 2000は「DIドルッパ」と言ってもいいほど、DI機の発表が広く行なわれた。しかし、DI機開発で先行したハイデルベルグや、実用レベルの実演にこぎつけて来場者の喝采をかったリョービなどを除くと、ほとんどの機種は搬入後にようやく仕立てて開会に間に合わせたものだったと思われる。 従来の印刷機メーカーに加えて、ゼロックスまでが顔を出したDI開発競争だったが、その後の動きにめぼしいものはない。drupa 2000の時点でDI機に期待された役割は、現実にはCTPとデジタルプリンターによって担われている。 デジタルプリンターに目を向けると、この分野を切り開いたXeikonやE-Printにかわって、ハイデルやゼロックスの機種の追い上げがいちじるしい。 前回ドルッパでハイデルが鳴り物入りで発表したモノクロプリンターDigimasterとカラープリンターNexPressは、商品化に多少時間を要したが、日本でも今年あいついで発売の運びとなった。 ゼロックスのDocuTechないしDocuColorは、相対的な割安感と品ぞろえの広さで利用が広がっている。前回ドルッパでハイデルに匹敵する展示を目指したゼロックスは、次回はハイデルをしのぐ展示面積を確保したい意向という。 印刷ASPの消長 drupa 2000で最も幅広い関心を集めたのは、印刷ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)の登場ではなかったか。 印刷ASPとは、印刷の受発注から、資材調達、工程管理まで、印刷業務を全面的にインターネットでサポートしようというサービスである。日本からの来場者にとっては、まだ耳新しいコンセプトであったが、北米では当時すでに過当競争にあり、drupa 2000の時点がそのピークであったと見られる。その後、印刷ASPの動きは急速に衰え、当時名乗りをあげた代表的な印刷ASPのうち、現在も生き残っているのはPrintCafe、Nooshなど、数えるほどしかない。 印刷ASPの最大の売りは、インターネット上での印刷受注であった。当時はITバブルの最終ステージに当たり、あらゆるビジネスがインターネットに移行可能であるかのような幻想のもとで、強迫観念にかられて印刷ASPに加盟した印刷業者も少なくなかったらしい。それまでの業務のあり方からは無縁のところから登場して、数パーセントのマージンを取るというビジネスに怨嗟の声もあったという。 印刷ASPの根本的な誤りは、印刷物の受発注がすべてネット上で完結できるとしたところにある。現実の印刷受発注はそう単純なものではなく、印刷ASPの動きが急速にしぼんだ原因もそこにある。 ただし、トータルサービスとしての印刷ASPが失敗に終わったからといって、印刷業務でのインターネット利用が無意味ということにはならない。印刷ASPがかかげたサービスを個別に見れば、実現可能なものはいくらもあり、実際、データのデジタル伝送にはじまって、遠隔校正、遠隔出力、名刺・ハガキ・封筒・伝票などの定型印刷物のオンライン受発注、少ロットカラーのオンライン受発注、ウェブベースの工程管理・業務管理など、資材のオンライン調達など、成果をおさめつつある分野は少なくない。 「OS for Print」という考え方 要は、最初のビジネスモデルが大風呂敷すぎたのである。もっときめこまかく取り組めば、成功例はもっと多かったのではないか。ほとんどの印刷ASPがつぶれたり買収された中でPrintCafeが生き残れたのも、同社がクレオなどの出資で設立され、印刷実務に通じていたことが一因と言えそうである。PrintCafe社は、競争相手を買収してシェアを広げるいっぽうで、同社自体も今春、Feiryの開発元であるEFIに買収された。2000年2月の創業以来赤字が続いているが、今年度は赤字幅が縮小すると言われている。 なお、これも代表的な印刷ASPと見なされたNooshも、その後、ウェブを利用した進行管理やDM制作のサポートなどにサービスを拡大して生き残りを図った。この9月には、同社のマネジメントシステムに着目したハイデルベルグとの間で提携が結ばれ、ハイデルの営業力による顧客の拡大が見込まれる。 日本国内では、紙専門の企業間取引サイト「ベイツボドットコム」や東京都印刷工業組合が運営する用紙・PS版の調達システムなどが動いているほか、上の例で見たような印刷ジャンルごとの受注サイトが着実に数を増やしており、また、drupa 2000の問題提起に刺激されて印刷会社や業界団体が発足させたASPサイトが、シンプルな仲介機能や見積もり機能を提供している。 上のPrintCafeがかかげるコンセプトは、「Operating System for Print」である。「SHOWA NEWS」のdrupa 2000レポートでは、これについて《このコンセプトは、今後の印刷界が取り組む課題を示唆していないだろうか。CTPにしろDI印刷機にしろすでに前回のdrupaで提起されており、今回はその成熟を確認した催しであったが、次回2004年のdrupaでは、「OS for Print」のある程度成熟した姿を見ることができるのではないか》とまとめたが、きたるドルッパではどのような展開が見られるだろうか。 PrintCafeの現実の業績や成否にかかわらず、「印刷のためのOS」という考え方は、現在も有効というだけでなく、これからますます重要になる。当初の印刷ASPがかかげたビジネスモデルは、いったん挫折したが、「印刷OS」と呼びうるシステムが、JDF/CIP-4の実装や印刷企業向けのMIS(経営情報システム)という形で開発が進んでいる。JDF(ジョブ・ディフィニション・フォーマット)は、前回のドルッパで発表された印刷情報記述言語である。代表的な製版機・印刷機メーカーが対応を進め、実装が進むごとに製品化してきているが、最終的な目標は来年のドルッパに置いている。 前回のdrupa2000は、オフィシャルには、工程間を垂直に結ぶ「デジタルワークフロー」と各種メディアを水平に統合する「クロスメディアパブリッシング」が2大テーマであった。その後の社会と印刷業界の経過を見れば、このテーマは業界の課題を言い当てていたことになる。ただし、そのような水平と垂直を統合したインフラすなわちOSは、まだ印刷業が容易に利用できる段階には達していない。drupa 2000の提案をさらに具体化したモデルがdrupa 2004で見られるか。ひとつの注目点である。 (03.11.4)
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