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草野心平記念館実技教室レポート
「ガリ版で詩集をつくろう」
文・写真/木村祐子

去る11月19日(日)、福島県いわき市の草野心平記念文学館で実技教室「ガリ版で詩集をつくろう」が行われました、以下は、「本とコンピュータ」誌の取材で参加した同誌編集部・木村祐子さんのメモです。実技教室の模様は、「本とコンピュータ」No.15(01年1月10日発売)の「ガリ版【本コ】」のページでも紹介される予定です。



いわき市平は、大正時代から詩の同人誌活動が活発であり、今回の企画展で取り上げられた三野混沌(1894〜1970)も謄写版でたくさんの同人誌を発行していた。
同館では、草野心平史料、詩の資料とあわせて、謄写版器材の蒐集もおこなっている。心平の「文字は心だ」という考えにあわせ、現在6台の謄写版(刷り器)がある。そのほとんどが、市内の学校や文房具やから寄贈されたものである。主任学芸員の小野浩氏によると、心平に限らず、詩人は文字にこだわることが多かったらしい。(お金がなくて活版刷りができなかったからかもしれないけど)
ちなみに小野氏は生粋のガリ版ファン。年賀状をガリ版で刷りたいとおっしゃっていた。

講習会について

・午後1時半から始まった。参加者は約30名。そのうち13名が小川中学校の生徒さん。ほかには昔ガリ版を使っていた年配の方、とびこみで2名の若者(福祉関係の仕事をしている24才)

・講師は地元の女性グループ「桐の会」から3名。「桐の会」は5年間で10冊の文集(「銀のペン」)をガリ版刷りで発行していた。現在は休止中。ガリ版で文集をだしていた理由は、ガリ版そのものよりも、編集から印刷まで、手間と時間をかけることによって、会員の交流がはかれるからということだ。(会の設立趣旨は親睦をはかることと、いわきの女性の地位向上)

・会場には、いわき民放社、福島中央テレビからも取材が来ていた。記者は二人とも若く、講習会まえにテレビの記者は謄写版印刷の原理と器材の使い方をレクチャーされていた。 そのテレビを見てみたかった。当日の地方ニュースになったらしい。

・あらかじめつくった詩を持ってきた。まず、原紙をコピーした紙にレイアウトを書き、その後製版。はじめて鉄筆を握る参加者が多かったので、はじめは躊躇していたが、一人が始めると、みんなカリカリと「ガリを切り」はじめた。
中学生に「その音、イヤじゃない?」とたずねたが「ううん、面白い」といわれた。ただ、原紙をぴったりのばして切るのはむずかしいらしく、原紙をやぶる生徒もいた。
結局時間切れで、全員分刷ることができす、残りは文学館の職員が刷って製本する。12月中には完成の予定。文学館で参加者に手渡す。

・詩集名『二ツ箭 2号』(1号は平成10年度に詩作講座の受講生がつくった)

・ひとり1枚(2ページ)ずつの分担。

参加の理由

中学生 学校で先生から「ガリ版で詩集を作るイベントがあるよ」と告知され、(全校的にらしい。1年生から3年生まで集まっていた)詩集をつくりたくて来た。/ガリ版がどういうものだか知りたかった。/お友達が行くから。

中学生たちは旧いものに接する、というよりも、いつもの工作(技術?図画工作?)の授業のように、作業していた。(こわごわ旧いものにさわるというのではなく)
二人一組で印刷したので、キャーキャーいいながらやっていた。「けっこう力がいるな」との声複数。「難しかった?」と聞くと「ううん。面白かった」。思い入れなしに謄写版に接する中学生たちは、手作業で印刷物ができることに興味をもったようだ。そもそも古いものと認識していたかわからない。なにせ刷り器は新品のようだし、会場はきれいだったし。ガリ版印刷に色をつけず、ただ楽しい、面白いと感じた彼らの気持ちと、いわゆるガリ版ファンとはすこし違うかも知れない。でも、このことで、ガリ版の価値があらためて認められたとちらっと思った。

若者 新聞の広告を見て参加した。自分の詩を自分の文字で印刷したかった。

彼らは初めてガリ版を見たが、文字を刻むのも印刷も面白かったらしく、さかんに「スゲー!」と言っていた。電気を使わない印刷、手の印刷術が新鮮だったようだ。彼らは「こんなものがあったなんて、すごい」の連発で、どういう点が? とたずねても、感動した理由を具体的に説明できなかった。ただ、刻む、刷るという作業をひとつひとつ積み重ねていくことが楽しいようで、一つの作業が終る度に「すごい」と言っていた。 彼らがあまりに打ち込んでいるので、「桐の会」のメンバーが二人にヤスリと鉄筆を贈った。

一般(年配) 昔はよく使っていたのに、今は刷る機会がない。家にはヤスリも鉄筆もあるのだが。「家にヤスリと鉄筆がある」という方は複数いた。

そのほか

用意された謄写版は3台。いずれも新品同様。インクはホースブランド、ヤスリはシャチほかいろいろ、刷り器もホースと書いてあった。鉄筆は1人一本以上ある。ローラーやヘラ型のものもそろっている。参加者にかぎらず、年配の方はマイ鉄筆、マイヤスリを持っている人はいる様子。
鉄筆とヤスリの多さに驚いた。ヤスリは2人で1つずつ使っていた。地方には、まだ器材が保存されているのではないか。
●SHOWA HP