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素材は社内にある!! ―― 身近ではじめるワンソースマルチユース ――「SHOWA NEWS」No.91より
まず身辺の点検から IT化社会の課題のひとつに、デジタルアーカイブがある。文化財などをデジタル化して保存・公開しようというもので、印刷業界にとって大きなビジネスの可能性を秘めている。現実の博物館や図書館の持つ資料のデジタル化にはじまって、名所・旧跡の景観や関連資料をデジタル技術で立体的に保存・再構成しようという試み、学術資料のデジタル化による利便性の拡大、などしばしばニュース種になるが、あるいは中小の印刷業には無関係のこととして、聞き流しているかもしれない。しかし、デジタルアーカイブという言い方は、ことの文化的側面や利用価値の側面であって、技術的側面はデータベースにほかならない。仕事の性格から言えば、印刷業界が本格的に参入を図っていいジャンルである。 国や資金力のある自治体・企業が計画する新規のビッグプロジェクトはひとまずおいて、身辺を点検することからはじめたい。 印刷人の盲点 どんな規模の印刷会社も、年に何度かは資料類の印刷を請け負っている。むしろ、規模が小さいほど資料類の比重は多いであろう。この資料類が、「ワンソースマルチユース」というときの「ワンソース」に当たる。つまり、ひとまとまりのソース(素材)である。 たとえば、生態学か環境問題の調査資料があるとする。この資料は、地図、動植物や景観のスケッチ・写真、動植物の個体数・分布図、環境の化学データ、調査の経過報告、解析結果、引用資料の出典、その他さまざまなものから成るであろう。印刷会社の仕事は、これを一冊の報告書として最終的にまとめることである。この報告書が、印刷会社がマルチメディアに乗り出すための貴重なスタート台になる。 製本を終えた報告書は、がっちり出来上がった完成品であって、もう形が崩れることはない。きちんと色を出し、きちんと印刷して、しっかり製本すること、これが印刷という仕事のやりがいであり、印刷人の誇りだが、このことが逆に、マルチメディアを考えるさいの盲点になる。内容をもう一度ばらばらにして素材を見直せば、これらの素材にはほかにも使い道のあることが見えてくるはずである。身近な例でいえば、一冊の論文集から特定の研究者の論文だけを抜き出すことはよくある。抜き刷りは、マルチユースの素朴な段階といえる。 既存の印刷物を作り変えてみる さらにさかのぼって、加工前の素材、あるいは加工途中の半製品に注目してみよう。すると、報告書を構成する素材には、他にも生かし方があったことがわかる。たとえば動植物の写真だけ取り出して、写真集にすることができるのではないか。あるいは、一点ずつ加工してパネルにすることも、絵葉書にすることもできる。 これを一歩進めて、この報告書をデジタルメディア用に再構成すること。これが印刷業として最も手近なマルチメディアへのアプローチではないか。 具体例を述べなければならないが、今回は準備が足りないので、考え方の基本を3点だけあげておく。 (1)与えられた材料をぴったり使いきって一冊の本に仕上げるのが印刷本来の仕事であるが、マルチユースの考え方では、材料を全て使い切る必要はない。とくに、既存の印刷物の素材を再利用する場合、それらの素材はすでに一度「おつとめ」を果たしたのであり、使い残しても惜しくない。 (2)技術は最重要のファクターではない。たとえば、会社をあげてXMLの技術を習得しても、仕事は湧いてこない。技術よりも、素材を見直して提案する力と、得意先を説得する営業力が優先する。 (3)おおかたの道具はすでにそろっている。とくに、印刷業はパソコンを使いこなしている。これだけで、道の半ばまで来ている。これからそろえなければならない技術やツールも、極端に難解なものや高額なものは一つもない。 |
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