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2030年、印刷は存在するか
-- 「SHOWA NEWS」No.90より --


アメリカでは、紙にインクを乗せるという印刷業のコア業務は、全業務の80%程度に比重が低下するだろうと言われている。残りの20%はウェブページの製作や情報処理に置き換わるというのである。
印刷界の外では、もっと大胆な予測が行われている。99年秋のシーボルト・セミナーでマイクロソフト社の幹部は、「2020年には紙の本の割合は20%に下がり、80%は電子ブックになる」と予測して話題を呼んだ。日本ではインプレスの塚本慶一郎社長が、ホビーや美術品としての本は除いて、2030年には紙の本はなくなると予想している。

これらの予測の背後にあるのは、たんなるデジタル化万歳とかインターネット万能論ではない。紙に代わる表示媒体が開発されると見るからである。
現段階の技術では、印刷物の可読性は電子メディアをはるかにしのいでいる。たとえば、家庭やオフィスに毎日届けられる新聞。朝刊だと一紙でも30ページを越え、たんねんに読めば4時間も5時間もかかる情報が盛り込まれているが、けして重いメディアではない。
ざっとページをめくってみるだけなら2〜3分ですむ一覧性の良さ、広げても畳んでも読める柔軟性、手で持ち歩いてもカバンに入れてもさほどかさばらない携帯性、これほどの視認性・可読性の高さをコンピュータ端末はまだ実現していない。だが、事情は変わりはじめている。

昨年11月20日、たまたま電子ペーパーに関するニュースが重なった。
ひとつは、CANON EXPO 2000で参考出品されたキヤノンの「ペーパーライク・ディスプレイ」。厚さ200μ〜300μで、紙の柔軟性と読みやすさを備え、通常の液晶ディスプレイが100dpi程度であるのに対し、200dpi以上の視認性を実現する。キヤノンでは、携帯端末として使用できる品質のディスプレイを、1枚1000円で2007年に発売したいとしている。
アメリカでは、出版社やコンピュータメーカーの出資を受けるベンチャー企業E Ink社が、「エレクトロニックインク」という技術を使った表示装置の商用化にこぎつけた。横幅1.2mほどの看板型の製品を1枚1000ドルで発売する。携帯端末に使える高精細型を2005年に完成させたいという。
12月に入って、ゼロックスも電子ペーパーの開発予定を発表した。開発は同社が出資するベンチャー企業で行われ、今年2001年に最初の製品をリリースする。

電子ペーパーの開発プロジェクトは、ほかにも国内やヨーロッパで動いている。目標が明確な上、大規模プロジェクトではないから、町工場程度のベンチャーから新技術が生まれてくる可能性もある。遅くとも10年以内には実用化されるのではないか。
文字情報を読みやすい形で読者に届ける仕事(たとえば手書き原稿を活字に置き換えること、たとえばコンピュータの記憶装置に貯えられたテキストを人間が読める形に直すこと)は、すでに印刷の独占分野ではない。紙にインクを乗せる仕事がいつまで安泰か、印刷業の今後を考えるには、そこまで視野に入れておく必要があると思われる。

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