ホーム 「技術トピックス」目次 |
SHOWA NEWS No.84
1999年2月12日号より 今年もPage99やメーカー・商社のフェアなどを経て、業界の技術動向が見えてきました。特別ホットなトピックスには欠けた年頭でしたが、個々には興味深い動きも出ています。21世紀にかかる課題を拾ってみました。 DTP DTPはすでに成熟した市場であり、近年はメーカーの開発意欲も低調である。今後は、ブーム的な話題になることはなく、定番システムとして日常的に市場を流れて行くことになろう。 中で、大日本スクリーンはWindowsで動く新製品AVANAS PageStudioを発表した。組版機能のほか、描画機能、画像処理機能を備えたオールインワンソフトである。 従来からの定番ソフトとしては、PUBLISH MATE、SMI EDICOLOR、QuarkXpressなどがある。Pagemakerは、立ち上がりの早さが受けて一時印刷業界に入りかけたが、高度な日本語組版を実現するには苦しい。 デザイン業界では、Quarkが依然としてシェアをにぎっている。豊富な機能拡張(Xtension)が蓄積されている強力なシステムであるが、日本語ページ物の分野では他システムに比べて使いにくい面もある。 印刷業界では、P-MATEやEDICOLORに加え、かつての電子組版機の流れを引くシステムや、写研、モリサワの機器が市場を分けあっている。 現在の組版システムはGUIによる高水準処理が主流であるが、P-MATEはコマンドベースの低水準処理でも威力を発揮する。プロ用途としては現在最も強力なシステムであろう。メーカーやディーラーのもう一段の普及努力が望まれるところで、ショーワとしてもさらに普及につとめる所存です。 「組版指定交換形式」JIS 書籍や学術論文の組版については、日本規格協会電子文書処理システム標準化調査研究委員会ワーキンググループが「日本語文書の組版指定交換形式」の規格作成を進めている。 これは従来の「日本語文書の行組版形式」規格を包含する一回り大きな規格で、HTMLおよびTeXとの対応を考慮した汎用性の高いものとなる。現在素案の公開レビュー中で、今秋には規格化される。 この規格を満たすため、今秋以降DTPなどの分野で何らかの動きがあると思われる。活性化のきっかけになるか、注目と期待がかかる。 SGML/XML このところSGMLをめぐる動きは緩慢で、そのサブセットとして注目されるXMLも爆発的な動きは見られない。統合的文書処理システム「FrameMaker+SGML」を持つアドビは、去年のPage98でも今度のPage99でもこれに関するアナウンスを行っていない。全体としてデッドロック状態の感がある。 ただし、個々には取り組みが継続しており、今回のPage展でもビュアーやコンバーターが各種出品されていた。写研がSGML/HTMLとの双方向変換システムを出してきたのも、面白い動きである。 原則的なことをいえば、SGMLを捨ててXMLに絞ったほうが、開発努力が分散しなくてすむのではないかと思われるが、これまでの開発蓄積もあって、そうもいかないらしい。いずれにしろ世界的な情報インフラたりうる言語は今のところSGML(ないしXML)しかない以上、この分野の模索は続くであろう。 その中で注目されるのが、マイクロソフトの動きである。同社のウェブブラウザー「インターネットエクスプローラー(IE)」は、すでにバージョン4.0でXMLを部分的にサポートしていたし、現在配布中の5.0(ベータ版)ではXMLのサポートを明示している。IE5.0が正式に出荷されると、現在のシェアからいって半数以上のパソコンに標準で搭載されることになり、ユーザーはだまっていてもXMLビュアーを手に入れることになる。このことは、XML関連システムの供給側から見れば、自前のビュアーを用意しなくて済むことを意味する。今後の動向の焦点になるのではないか。 ウェブブラウザー ウェブブラウザーは、インターネットを見るだけの道具ではない。インターネットエクスプローラー(IE)とネットスケープナビゲーター(NN)が普及して、ほとんどのパソコン上でHTMLデータを表示できるようになったため、これをマニュアル類や工程管理システム、小規模ネットワークの表示ツールとして使う動きが出てきている。 この動きは、話題としては地味だが、広がりは大きい。数年前のマルチメディアブームのころ、CD-ROMといえばDerectorなどの高級なオーサリングツールを用いて編集するのが一般的だったが、現在では特別高度な仕上げを必要としないものは、大半がHTMLで記述されている。ほとんどのパソコンにIEやNNが搭載されているため、ブラウジング手段を用意しなくてすむのが大きな利点である。 ウェブブラウザーを利用した工程管理システムなどは、メーカー側よりもユーザー側でノウハウが蓄積されている。Page99でも、共同印刷や中堅印刷会社、あるいは情報処理業者などのブースで、この種のシステムが展示されていた。 簡便であるため、かえって話題になりにくいが、HTMLはすでに情報処理の基礎テクノロジーである。印刷会社から得意先への提案の余地も大きく、SGMLやXMLに比べ技術的なハードルも格段に低い。 PostScript 現代の組版は、PostScriptをベースに成り立っている。とくに、オープン化されたシステムほどPostScriptに拘束されるという一種の矛盾が生じているが、この状態は今後も当分続くと思われる。業界標準たりうるページ記述言語が今のところPS以外にないという事実、およびその高度な機能、またアドビ社が社運をかけてメンテナンスしているシステムであるという現実を考えれば、PSをいちがいに退ける理由はない。組版のインフラとして尊重すべきである。 現在の問題点は、もともと大規模な言語であったPSがさらに巨大化しつつあることで、このまま各メーカーが追随していくには、かなりの無理が出てきている。実際、組版システムなどが出力するPSデータは、PSの機能をフルに利用したものというより、PSの基本的な機能を素朴に利用したものであることが多い。このことを考えると、今後はアドビのサポートを受けていない非純正システムにも注目していいのではないか。いずれにしろ、インフラとしてのPSは今後も当分健在と思われる。 異種の媒体上で同一のイメージが実現できるというのが本来のPDFの狙いであったが、現在のところ遠隔サイトでの校正用以外には用途が広がっていない。長期にわたってアドビ社から新しいアナウンスがないのも、気になるところである。 たとえば、紙とブラウン管のように性質の異なる表示媒体上では、それに適した文字や画像の表現方法(レイアウト、書体、画像密度、etc.)も異なる。そういう事実を踏まえると、PDFの特質として上げられている「異種媒体での同一イメージ」という理想は現実的ではない。当初の意図とは少しずれたところでPDFは使われていくのではないか。ただし、ユーザーによるプリントアウトを前提とした情報提供メディアとしては、コストの利点が大きく、将来も有望である。 現在アメリカでPDFが広告配信の標準的手段となりつつあるという。テレビや全国紙などの少スペースで高額な媒体に比べるまでもなく、一般のペーパーメディアと比べてもPDFははるかに安価な媒体である。その他、マニュアル、プレゼン資料、デジタルブックなど、PDFの利点(相対的な軽さと表現力の高さ)が生きるジャンルではおおいに力を発揮するのではないか。 プリント・オン・デマンド データベースや組版データの形式でコンピュータに蓄えたデータを、必要なときだけ取り出すプリント・オン・デマンド(ブック・オン・デマンド)は、将来性が最も注目されるジャンルである。 今のところこの分野で実質的な成果をあげているのは、ごく一部の出版社や学術資料などの出版団体であるが、これらはまだ世界的にも例は少ない。隠れた成功例は、情報処理に慣れた大手企業の社内印刷部門であろう。とくにコンピュータ関連産業では、社内処理が相当程度まで進んでいるはずで、プリント・オン・デマンドと名乗っていないだけで、現実にはオン・デマンド処理が実質的に動いていると見られる。この動きは、印刷業界に対しては、発注量の削減としてマイナス効果をもたらしている。 一般の印刷業は、まだこの分野にほとんど取り組んでいないが、大量に保存している得意先のデータを点検して、再利用の可能性を見いだしたい。得意先の信頼を得ている印刷会社であれば、新しい仕事を提案、開拓できる可能性は小さくない。 CTP コンピュータ・ツー・プレート(CTP)は去年あたりが一つの山であったと思われる。システムは一通り出そろったので、今後はユーザー側(印刷会社)の取り組みが課題となる。 大きな問題点が2つあり、ひとつは技術者の問題である。組版工程がデジタル化されても、製版技術者がデジタルシステムを受け入れないと、CTPの導入は不可能である。製版技術者の意識改革が進むか、もしくは組版技術者が製版工程まで管理するような体制が実現しないと、CTP本来の目的である省力化は実現しない。 もうひとつは、色校正の問題である。CTPの日本での普及が広がらない一因として、色校正の厳しさが指摘されている。そこで期待されるのが、デジタルカラープルーファーの高精度化であるが、異系統の校正機と出力機の組み合せで、日本の色校正のレベルがクリアできるだろうか。やはり従来と同様、発注側と受注側の密接なコミュニケーションで解決して行くのが基本であろう。 情報デザイン さまざまな情報処理システムとテクノロジーが登場する中で、テキストから数値、音声、画像にわたる多様な情報をどのように管理し、どのように整理し、どう切り出し、仕上げ、提供し、フィードバックしていくか、トータルな観点からの「情報デザイン」の必要が叫ばれている。 技術的には、この問題は「ワンソース・マルチユース」の課題と重なるが、DTPやPDFといった現場技術の枠組で対処できるものではなく、より高い視点からの情報戦略がなければならない。 一見、印刷会社とは無縁の領域のようではあるが、テキスト処理、画像処理から始めて、時間をかけて情報処理一般に手を伸ばしてきた印刷会社には、相当の関連ノウハウが蓄積されている。これをさらに伸ばすことができれば、印刷産業は21世紀の情報処理をリードする立場に立てるのではないか。 ごく大ざっぱな言い方をすれば、情報デザインに関して優れた勘と実績を持っているのは広告代理店である。ただし、デジタルデータレベルで緻密にことを運ぶ能力には欠ける。むしろ、現在最も有利な位置にいるのは、大手印刷会社ではないか。また、中堅印刷会社の一部が、かねてから広告代理店的な仕事の進め方をしてきていることも、こうした流れの中に位置づけると、その意義が見えてくる。 デジタルカメラ 98年は各メーカーが100万画素の製品をそろえて、メガピクセル時代の到来といわれた。100万画素ではプロの用途には不十分だが、写真家のあいだでも意識の変革が進んでいて、これまでのように現像所の力を借りて写真を仕上げるかわりに、パソコンを使って自分で加工する人が増えている。今後数年のうちに、従来のフィルム式カメラの役割をデジタルカメラが大部分取って代わる可能性がある。 OCR 画像解析から音声入力まで、アナログデータのデジタル解析はこの10年で最も技術進化の著しかったジャンルで、OCR(光学文字読み取り)もその1つである。 10年前なら数千万円の(というより商品化されていなかった)レベルのOCRシステムが、現在では数十万円から発売されている。たんに文字データを読み取るだけでなく、原稿のレイアウトを読み取って、組版情報として再構成する機能も、すでにめずらしくない。問題は誤判別であるが、0.01%のオーダーの誤字率で運用しているユーザーもあるほどで、優秀な文字入力オペレーターの能力を大きく上回っている。 OCRの巨大な市場として、過去の印刷物の再生業務がある。国レベルの電子図書館の建設をはじめ、新聞社や出版社、各種資料館に保存されている印刷物の電子化は、文化的事業としても取り組みがいのあるジャンルである。 2000年問題 コンピュータが「00」年を「1900」年と勘違いして誤作動を起こす西暦2000年問題は、社会が今年1年をかけて取り組まなければならない情報化時代のツケともいえる問題である。 アメリカ政府などは、交通機関の事故やマヒを想定して、2000年初頭の旅行をひかえるよう注意を促しているほどで、コンピュータの浸透が大きい社会ほど、この問題の影響も重大である。 作業のベースが完全にコンピュータ化され、あらゆる機器にコンピュータが搭載されている印刷の世界は、むろんこの問題が避けて通れない。実際に影響が出るのか否かもわからない問題で、不安心理だの先行を避けるためにも、メーカーには最大限の情報提供を期待したい。当社としても、情報の収集とスピーディな紹介につとめます。 |
|
Mail to SHOWA |