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(株)三州社情報支援部
小山 明広 SHOWA NEWS No.81 1998年4月15日号より PDFはポータブルドキュメントフォーマット(Portable Document Format)の略です.PDFが日本語対応になったのは去年の夏か秋ぐらいからだったでしょうか. それ以降,日本でもかなりPDFを利用した事例がみられるようになってきました.今回はこのPDFについて簡単にまとめてみました. PSを土台に新しい展開 PDFはアドビが新しく開発したファイルフォーマットです.アドビといえばDTP関連でポストスクリプトがすぐに思い出されるわけですが,新たにPDFを開発した意図は何なのでしょうか.一言でいえば,ポストスクリプトという技術を土台にして,そこから電子文書への対応などの新しい展開を図ったということになります. 一つは電子文書,つまりネットワーク上で配信されるデータ,印刷よりは画面での閲覧を想定したデジタルデータに関して,ポストスクリプトの延長線上にあるものを提唱するということです.ポストスクリプトの特徴は高品質で美しい印刷再現が可能だということです.一方,現在インターネット上のホームページはHTMLという言語で記述されていますが,デザインとか表現力という点では印刷物を前提にした組版ソフト上のそれとは比較になりません.ところが,PDFを用いるとPageMakerとかQuarkXpressで組んだそのままのイメージを再現できます. また,電子文書はネットワーク上での配信が前提となるため,文書サイズが小さいことも重要です.この点でもPDFは中身の文字や画像など要素毎に最適な圧縮を行うことができるため,ポストスクリプトファイルよりもコンパクト(10分の1以下)になります. さらに,ネットワーク上で配信されるデータは送信側と受信者側のフォント環境が同じでないと文字化け,ピッチのずれなどが生じ,最悪データが読めないという危険性があります.PDFデータはこの問題をうまく回避できるように工夫されています.(ただし,PDFデータを制作する立場の人はPDF上でのフォントの扱いなどを詳しく理解しておく必要があります.) もう一つは将来的な展望になりますが,DTPの世界における新しいファイルフォーマット,ポストスクリプトの次のフォーマットにしようという意図です.現在,ポストスクリプトはプリンタに送られる最終データとして採用されていますが,アプリケーションでの作業結果を直接PDFで保存し,それをポストスクリプトに変換することなく,直接プリントできれば,処理速度のアップなどいろいろメリットがあります.現在のレベル2のRIPではPDFデータを直接出力することはできませんが(もう一度PSデータに変換する必要がある),次のポストスクリプト3というバージョンでは,PDFデータを直接処理できます. PDFデータの作成・加工 PDFデータはAcrobat Readerを用いて閲覧することができます.ホームページを閲覧するためのNetscape NavigatorやInternet Explorerなどのブラウザでもみることができます. PDFデータを作成する方法は3つ考えられます. 1 アプリケーションソフトから直接書き出す 2 Acrobat PDF Writerを用いる方法 3 Acrobat Distillerを用いる方法 1の方法はアドビ社のIllustrator,PageMakerなどPDFの書き出しが行えるソフトを用いることです.特定のアプリケーションソフトでしかできない方法なので一般的な方法ではないかもしれません.その代わりにホームページにみられるようなリンクを張るとか,索引ページを作成するという作業がアプリケーション上で行えることが便利な点です. 2の方法はアプリケーションソフトから印刷するときのプリンタとしてPDF Writerを選択する方法で,普通にプリンタに出力するのと同じ操作で自動的にPDFデータをファイルとして作成してくれます.この方法は簡単ですが,圧縮方法の指示ができない,元データにEPSファイルが貼り込まれている場合,粗画像でしか出力されないなどの点に注意が必要です.PDFを作成する目的がプレゼンテーション用のデータの作成などOA目的での利用の場合には便利な方法です. 3の方法は一度ポストスクリプトファイルを作成し,それをDistillerというソフトを用いてPDFデータに変換する方法です.この方法がPDFの作成方法を一番細かく指示できます.テキストや画像データの圧縮方法や圧縮率を品質に応じて細かく指示したい/欧文フォントや外字を埋め込みたい/もともとDTP用のデータを画面表示用に変換したい,など変換時のオプション設定が細かくできるのが特徴です. これらの方法で作成されたPDFデータはAcrobat Readerがあれば閲覧可能ですが,さらにマルチメディア向けに手を加える作業が必要な場合もあります.例えば他のページへのリンクを張る,サムネールをつけるといった作業です.これらの作業を行うには,Acrobat Exchangeというソフトを用います. 以上がPDFデータの処理の流れです. PDFの用途 PDFを用いれば,DTPソフトで組版したそのままの体裁がデジタルデータとして配布可能になります.利用の例としては ○インターネット上で配布される製品カタログ,レポート,マニュアル類 ○社内ネットワーク上で閲覧される文書類 ○遠隔地での校正に利用されるデータ などが考えられます.要は,紙に印刷することを前提にした原稿をPDFという形にしたとき,どんなメリット,活用の仕方が考えられるのかということでしょう.2で述べたようにPDFの作成作業自体は大した手間でもなく,ホームページを作成するよりも普段の仕事の流れになじみやすいものです. 普段の仕事では,PDFを画面上で閲覧する立場が多いのですが,その点から実際にPDFを利用してみた感想を述べてみたいと思います. 1 意外に見づらいPDFデータ 最初に述べたように,データ作成者と同じフォントがなくても,同じ体裁で見られるというのがPDFの売りです.しかし,実際に閲覧してみると文字サイズによっては,文字のコントラストが低く,非常に目が疲れるというのが実感です.画面表示を拡大すれば済むことですが,代わりにスクロール回数が多くなって不便です. 2 印刷物と同じレイアウトを画面で確認するのは苦しい 印刷物では段組みにしたり,見開きを前提にしたレイアウトなどが考えられます.しかし,そういった複雑な体裁のデータを画面で見ようとすると,スクロールが頻繁になりがちで,どこを見ているのかわからなくなることがあります.印刷物のレイアウトと画面のためのレイアウトは別物だと考えたほうがいいように感じます.よく,「ワンソースマルチユース」という耳にしますが,そんなに簡単にいく話ではないでしょう. 3 PDFを軽快に見るためにはハイスペックのマシンが必要 PDFだけで作成したホームページなどを見ようとすると,マシンの性能によっては表示やスクロールが遅く,いらいらすることが多い.ということはPDFデータは誰でも利用できるようなものではなく,実用性を考えると,かなり用途が限られるような気がします.閲覧する側からすれば,体裁の美しさよりも,画面表示の軽快さなどを評価します. |
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