出版社における内製化が進んでいます。最近では、講談社や小学館がオンデマンド印刷システムを導入して各方面から注目されましたが、内製化の進展はとくに組版部門で顕著です。ここでは、IT系出版社オライリーのケースを紹介します。
上図は、オライリー・ジャパンにおけるEPUB制作のシステムです。 個々のソフトウェアや具体的な運用についてはリンク先で見ていただくとして、このシステムには3つの大きな特色があります。
この3点です。
上図のうち、データや進行状況の保存・共有に利用しているGoogleのオンラインサービスGoogle Docs(現Google Drive)を除くと、システムはすべてフリーウェアで構成されています。Google Driveも安価なサービスなので、ほぼゼロ円のシステム構成といえます。
またこれらのソフトは、InDesignやMS Wordなど一般に使われている組版ソフトやワープロソフトのようなグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)ではなく、文字ベースのインターフェース(CUI。WindowsでいえばDOS窓)で利用するものです。CUIツールは細かい紙面デザインの調整などを行うには不向きですが、シンプルなデザインのページ生成に関してはGUIツールよりはるかに高い生産性があります。
原稿体裁の統一については、執筆者や編集者の協力が必要です。
入稿された原稿は、上図右上の吹き出しにあるDocBookまたはReVIEWというソフトで処理されます。現在は主としてReVIEWが使われているようです。
ReVIEWは、ひとつのソースからHTML、XML、LaTex、PDF、EPUBを自動生成できるワンソースマルチユースのツールです。ReVIEWで処理する原稿は、そのためのルール(ReVIEWフォーマット)に従って書かれていなければなりませんが、HTMLの記法に慣れたユーザーならルールは容易に理解できます。
以上で見たオライリー・ジャパンのケースは電子書籍に関するものでしたが、以下で見る本家の米オライリー・メディアのケースは印刷書籍も含めたものです。
米オライリーでは、印刷書籍・電子書籍を含めた全出版物の75%をHTML+CSSで生成しているとのことです。下図がそのおおまかな制作フローで、原稿をHTMLに加工したうえでスタイルシートを適用して最終産物(PDFやEPUB)に変換しています。
フローのいちばん上にあるascはAsciiDocの略で、オライリー・ジャパンで利用しているReVIEWに相当するものです。ReVIEWと同様、簡単な記号を織り込んで原稿を書くだけで、HTMLやXMLを自動生成することができます。
最終産物の生成にはアンテナハウスのAH Formatterが使われています。AH Formatterは下図のように、XMLまたはHTML形式のデータをPDF、PostScript、EPUBなどに変換するソフトです。
オライリー・ジャパンのEPUB制作フローと異なり、米オライリーでは商用ツールを利用していますが、それを除いた2点
は日米共通で、いずれも高い生産性を可能にするものです。
一部の出版社、とくにIT系出版社で組版の内製化が進んでおり、内製化を実現した出版社では、平均的な印刷会社の生産性や投資効率を上回るレベルでシステムが運用されています。こうした動きが文系出版社にも広がる可能性についてはSHOWA NEWSでも触れました。出版社が編集を行い、組版以降を印刷会社が受け持つという出版事業の役割分担が崩れつつあるのが現状です。
また、自動組版の最近の傾向として、XMLを軸に組み立てられていた作業フローをHTMLベースに移す動きがあります(米オライリーの例はその代表的なものです)。HTMLの役割が、Webにとどまらず電子書籍や印刷物にも広がる中、HTML関連の技術と知識は印刷企業にとっても避けて通れないものになってきました。
[2013-11-18]