税制改革と零細商工業者

『昭和堂月報』No.31(昭和26年7月)に、「新居案内」(滋賀・大野貞男)と題する次のような詩が載った。
   輩が………
   税務署が………点けていった
   火の車を曳いて
   私は引越しした
   (…)
   みじめさに奥歯をかみしめ
   (…)
   私は魚のように
   車を曳いていった
   郡上駐在所
   東へ五けんめ……倉庫西
   負けおしみでも
   そこは安住のへやである
今となっては事情の理解しにくいこの詩は、シャウプ勧告による税制改革を背景にしている。この改革で、源泉徴収が強化され、住民税が倍になり、とくに特別行為税は売上高の数十倍になる場合もあったといわれ、零細商工業者は納税に苦しんだ。税制改革のもたらした過渡的歪みを、日本軽印刷工業会編『軽印刷全史』は次のような例をあげて伝えている。
熊本のある業者は、市内でも税金闘争の急先鋒であった。そのため税務署からにらまれ、あるとき20名余の税務署員がピストルをかざしたMPとともに乗り込んできたが、従業員は机や椅子でバリケードを築いて署員を追い払った。
大阪では、ある業者がトラックで乗り付けた10数名の税務署員に踏み込まれた。しかし、経営者が
「君たちはまるでゴロツキだ。こちらの事情を聞きもしないで、脅迫するならしてみよ」
と立ちはだかると、署員は差し押さえを断念して引き上げた。
特別行為税の執行は地方によって差があり、東京ではこのような騒ぎは伝えられていない。ただし、税務署の裁量による一方的課税を免れるため、個人経営から会社組織への衣更えが目立った。
「昭和堂月報の時代」
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