創刊の挨拶

昭和謄写堂主 幅弓之助

大震災前の胎生期から、その黎明期を経て、今日の謄写印刷界に技術家として、器具材料の製作販売当事者として生活してゐる私は、斯界研究家と共に、現在のこの華々しい美術謄写印刷界を興し、そして将来の輝かしい栄光を望み得る事に、その頭初から参加せる一員として、いさゝかの誇りと、一層の勇躍を感ずるものであります。

そして又、我々の歩んで来た苦難の途を思ふ時、今日の謄写印刷入門者或は研究家が、著書に、雑誌に、実に易々としてその全貌を究明し得る幸福を、羨ましく思ふものであります。然し乍ら、後進に途を拓き、謄写印刷の文化的使命に向つて、その地歩を確立することは、真に謄写印刷を普及し、発達せしむるための、我々の仕事であり、義務であると信ずるものであります。

この意味からして思ふ時、従来の出版物は余りにも少部数を発行し、又その価格も安価とは云ひ得ない事を残念に思ひます。又、それらの多くは高踏的に過ぎ、大多数の入門初心者、謄印界に関心を持つ大衆を閑却しつゝある事を残念に思ふものであります。

本紙は、かゝる問題の克服のための一助ともなればとの意図の下に創刊されたもので、紙面の狭小と当事者の不敏とは、もとよりこの大理想実現に僅少の責務を果たし得るに過ぎませんが、幸に、畏友佐川義高氏、千田規之氏の後援激励に力を得、又私自身、技術界の一員として、一般愛好家と接触する多くの機会に恵まれて居る事と、弊堂技術部及印刷部の多年の経験から、初歩向謄印界入門者への啓蒙紙の編輯発行には絶好の地位にあるものと自負するものであります。

そして、本紙の内容充実とその紙面拡張及び向上発達は、一に本紙利用者の熱意と密接なる協力に俟つ所甚大なるものでありますから、何卒、我々の意図を諒承され、御援助賜らんことを希望致します。

  昭和八年九月
(昭和8年9月発行『昭和堂月報』No.1より)
「昭和堂月報」の時代
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